【中野國枝様宛封書に同封の母君宛書翰】
　拝啓、暖さ日増に加り春らしくなりました。其の後家族皆々様にはお変りは御座いませんか、御伺ひ致します。お蔭で小生も至極元気で準備に忙さつされて居ります。来月五日に暇が有りますから、東京見物旁々(かたがた)来て戴けるでせうか。若し来て戴けるなれば、返事をお願ひ致します。会合のヶ所横須賀線・横須賀駅、四月五日午前十時頃迎へに出ます。
　万一当方早く出発する様になれば、電報又は速達を以つて知らせます。
　途中何かと食事を摂る事か不便で有ります故、充分持つて来る方がよいと思ひます。
　茨城県の方から写真が着いて居りましたら、一枚見せて下さい。尚以前にとつたものでもよいから、千鶴子の写真をお願ひ致します。来て戴けると否とにかゝはらず、大至急返事を御願致します。
　　　　　　　　三月三十日　　　　　　　中野信義
　　中のセキ様
　【中野國枝様宛封書】
　本朝兵舎ニ伝染病発生セシ為、誠に残念乍ら外出も出来ず、面会も出来ません。お母様に宜敷く。私の出発も数日なり。元気一杯で行く。行先はテニアンなり。若し時間があれば、第一海兵団の団門の所へ来て面会を頼んで見て下さい。
海兵団...海軍下士卒の教育・訓練及び軍港の守備を掌り、補欠員を統括する所。